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大河の教え

河底の浅い小川の水は

音を立てて流れるが、

大河の水は

音を立てないで静かに流れる。

出典:「スッタニパータ」720

ナーラカという人が釈尊にこうたずねたことがあった。

 「自分は出家して修行を実践しようと思いますが、聖者の境地・最上の境地とはどのようなものでしょうか。」そのとき、釈尊はつぎのように答えたという。

 「(聖者の境地・最上の境地を知るには)深い淵の川水と浅瀬の川水とについて知らなければならない。河底が浅い小川の水は音を立てて流れるが、大河の水は音を立てないで静かに流れる。いまだ欠けて足りないものは音をたて、満ち足りたものはまったく静かで音を立てない。愚者は水を半分しか入れない水瓶のようなものであり(つまり、振れば音をたて)、賢者は水の満ちた湖のようである(静かで音をたてない)。」

 大河が流れるように、湖が深く水を湛えているように、豊かで満ち足りたものほど静かである。そのように、聖者の境地・最上の境地にのぼるほど、穏やかで静か、そしてめだたなくなるのである。

 ブッタは、実に多くのことを、母なるガンジス河から教わった。そして、わたしたちにも河にたとえて教えを説いた。古今東西、河が人びとの実生活に深くかかわってきたのはいうまでもないが、同時に精神生活にも深くかかわってきたことを忘れるべきではあるまい。一瞬もとぎれることなく滔々と流れるその姿は、多くの比喩と象徴を生みつづけ、それがいつの時代にも含蓄ある示唆をわたしたちに与えたのである。

中村 元 「仏教のことば 生きる智慧」より

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