「無」とは、無門関で無文慧海(むもんえかい)禅師が、有無の会をなすことなかれ、虚無の会をなすことなかれと
注意しておられるように、有無相対いまだ分かれざる以前の根源的な「無」、有無相対を超越した絶対的な「無」で
あります。
有無、是非、善悪といった一切の相対的な思慮分別を超越しきった心の状態を「無」と呼びます。
つまり無分別の心の状態です。
分別する心を捨て去った心、つまり「無」は究極の禅のこころです。
「空」とは大乗仏教の根本の教理です。
般若心経の一節「色即是空 空即是色」はよく知られたところです。
この「色即是空 空即是色」が「空」の思想を端的に表現しています。
色(しき)つまり形あるものは、これすなわち空(形なきもの)です。
物質はいつか滅する存在です。
いつか滅するべき物質が、今ここに存在している事実。
この事実は、さまざまな縁がはたらいてはじめて成り立っているのです。
人間もいつか死んでいきます。
いつか死ぬべき存在の自分が、今こうして生かされている。
そこには、さまざまな縁がはたらいてはじめて、今こうして自分が生かされているのです。
この不思議な縁のはたらきによって生滅を繰り返す物質や生命。
この真理を「空」といいます。
「無」至道無難禅師 筆